現代医療施設が鍼灸治療を導入する際に直面する大きな問題が二つある。それは、混合診療と採算性である。混合診療は、保険診療と自由診療を一つの施設で同時に行うことでありこれを保険医療機関で行うことは原則として禁止されている。また、鍼灸が本質的に資本主義社会の医療システムになじむのか…という普遍的な問いである。そこにある問題は、鍼灸の採算性である。採算性の悪さを克服して、あるいは無視して実際に鍼灸治療を取り入れている医療施設もあることはある。そこではどのような形態で鍼灸治療を取り入れているのであろうか…。
その実状を憶測してみると…。もし、現代医療施設で、医師が鍼灸治療ばかり行ったら時間がかかりすぎて病院の経営は成り立たなくなってしまう。そこで鍼灸師を雇用して鍼灸治療を行わせることにする。医師は鍼灸治療が適切だと判断した患者のみ鍼灸治療にまわせばよいから今までどおりの診療活動がおこなえる。しかし、鍼灸師が行ったとしても、鍼灸治療に時間がかかることに代わりはない。ここで現代医療施設の経営者はいくつかの選択枝に直面することになる。
第一は、採算が取れないことを覚悟の上で他との違う特徴を持たせるために鍼灸治療を行うことである。特徴に引かれた患者の一部は、実際に鍼灸治療にまわすが多くの患者は今まで通り薬の処方や検査を行う。しかし、鍼灸を行っているイメージがプラスに働けば全体として来診患者が増えるかもしれない。俗っぽく言えば、鍼灸が、客寄せパンダになる。この選択枝には致命的な欠陥がある。
それは、鍼灸がマイナーがゆえに成立する宣伝方法のために、本当に鍼灸が多くの医療施設で行われれば、客寄せパンダの価値はなくなる。
第二は、鍼灸師の給料を安くするか、歩合給料システムにして人件費を抑えることである。この方法をとっている医療機関では、鍼灸師を正職員として雇用することは少ない。鍼灸師はパートタイムあるいは非常勤の労働者として雇用され患者数が減って採算が取れなくなればいつ解雇されるかわからない。
第三は、鍼灸師の治療内容を簡略化し患者一人当たりの治療時間を短くし一日に何十人も治療させることである。鍼灸師は、鍼灸治療だけでなく、低周波治療や理学療法助手などさまざまな業務を兼任することによって全体として他の医療系職員と同じくらいの収益を上げる。このような労働条件の場合、鍼灸師は自分のやりたい治療法を試すことができないためかなり欲求不満がつのるでしょう。また、体力的にも若くなければ業務を遂行できないためある年齢になると疲弊するか開業嗜好が強くなって退職し再び若い鍼灸師が雇用されることになるでしょう。このほかにも、あのてこのてで、採算を取ろうとしている例を聴く。しかし、まったく正当な方法で、鍼灸を現代医療施設に組み入れて採算が取れているというケースは現状では非常に少ないのではないかと思う。